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ReTERA03-9 不在の動機

地味にこの三話で書こうとしてることが多い。
減らせばとも考えたけど、ここを逃すと入れるタイミングも二度と来ないだろうな、と思うことも少々。





「ひとまず、今は周りに迷惑をかけないように頑張ってみましょうか? 周りをよく見て、ね?」
 こっちの返事も待たずに身を翻すと、エステルさんは大通りを行き交う人の流れに紛れ込んでしまう。
 路地を抜けて大通りに出る。さっき通った時よりも人が増えていた。しかも、人だかりができてる露天もある。もしかして、書き入れ時なのか?
 それでも左右を見渡すと、すぐにエステルさんは見つけられた。あの緑の髪だ。いくら人混みの中でも探すのは簡単だった。
 エステルさんは大通りの半ばにいる。人の流れに逆らうでも呑まれるでもなく進んでいた。ただまっすぐ歩いてるわけじゃなく、器用に人と人の合間を進んでいる。死角にでも入り込んでるのか、周りの人が歩くペースはまったく変わっていなかった。
 人が多いし流れも速いというか不規則だ。理由がなければ、遠回りしてでも避けてしまいたくなってくる。でも、それは人混みへの苦手意識からくる感想だ。今取らないと行けない行動からは、たぶんかけ離れてる。
「ああ、もう……行くしかないか!」
 自分を奮い立たせて流れに飛び込んだ。
 が、すぐに阻まれた。前に進もうにも、人の流れが切れない。スペースが空いても、横から僕を避けようとした人がそこに入り込んできてしまう。
「ちょっと通ります! 通らせてください!」
 これじゃ主人公を追いかける下っ端悪党と変わらない。違うのは、少なくとも悪党だって自覚はないし、押しのけた人へ悪態をつきながら進むような強引さは持ち合わせてないことだ。
 結局、そんな風に人を押しのけながら進むしかなかった。意識して無視したかったけど、通行人の白い目が痛かった。そして理不尽に思えた。
 確かに今こうして邪魔をしてるのは僕だけど、これだって訓練の一環だし、ひいてはここにいる人たちを守ることにだって繋がるはずだ。それなのに、これは……上手く言えないけど、いたたまれない。穴があったら入りたいというか、できるなら今すぐ自分から逃げ出したいぐらいだ。
 それでも、ほとんど意地になって進んで、なんとかエステルさんの前まで辿り着く。途中で何人掻き分けてきたかは自分でも分からない。
 余裕のつもりなのか、エステルさんは立ち止まっていた。後ろを見ていて、思い出したようにこっちを見た。理不尽だ。何が理不尽なのかも分からないのに、そんな風に思ってしまっていた。一つ思えたのは、絶対に捕まえないといけないってことだ。そうしないと気が済まない。
 両手を広げて一気に掴みかかる。
「相手を狙う時ほど視界を広く持つ」
 聞き返す間もなく、エステルさんが後ろへ跳ぶ。後ろをまったく見ずに、それなのに後ろにいる人たちを次々に避けていく。
 僕も避けないと。そう思っても体がついてこなかった。初めの一人とぶつかりそうになってバランスを崩しながら避けようと体を捻る。向こうも避けようとしたお陰で、少し体が接触した程度で避けられた。だけど、それまでだ。体を立て直そうとして、うまくいかないまま地面に倒れ込んだからだ。偶然ではなく、まるで狙ったような動きで。
 惨めだ。固い石畳の感触に、打った手足の痛み。そして、どうにもできない僕自身。わき上がったのは苛立ちだった。


web拍手 by FC2 [ 2012/08/30 05:00 ] ReTERA | TB(-) | CM(-)